6/08/2020

日本の「グローバルニッチトップ企業」とドイツの「隠れたチャンピオン企業」の違い⑤ <日本企業に決定的に不足する点>

こんにちは。公認会計士の山本です。

グローバルに経営する力 
今回は、このシリーズの第一回で記載しました、日本企業に決定的に不足する点について考察していきます。端的に言えば、日本企業に欠けるものは、外人に任せても経営できる力です。ドイツの「隠れたチャンピオン企業」は、世界中に10ヶ所、20ヶ所、30ヶ所、それ以上の海外子会社を設け、各国の現地市場に参入しています。これは前々回のブログに書いた通りです。若し、これと同じことを日本企業が行おうとしても、日本企業の多くが採用する本社社員を派遣・駐在させる方法では、人的資源の豊富な一部の大企業を除くと、殆どの企業では対応し切れないと思います。この方法で対応できるのは、精々1、2ヶ国ではないかと思います。とすると、中小・中堅規模の企業が10ヶ所、20ヶ所、30ヶ所、それ以上の海外子会社を設けるにはどうすればよいか。ドイツの「隠れたチャンピオン企業」が行っているように、現地人材に頼らざるを得ないと思います。とすると、現地人材に任せ、それでも、きちんと経営ができるか。それができるかどうかで、結果が大きく分かれるのだと思います。
例えば、韓国や中国、台湾であれば、日本のことを理解する現地人材が一定数、存在します。そのため、それらの現地人材を活用し、日本式の子会社経営の延長線上で、上手く経営することが出来るケースもあるのではないかと思います。ただ、それが上手くいったとして、では次に、インドに出られますか? ロシアはどうですか? ブラジルは?、アメリカは?、ドイツは?、南アは?、となった時、韓中台へ進出した時と同じようには、進出できないのではないでしょうか。しかし、ドイツの「隠れたチャンピオン企業」はそれが出来ます。チェコやフランス等の近隣諸国へ進出する時と同じように、極東や南米にも進出することが出来ます。なぜなら、人は現地採用ですし、それでも経営することが出来るからです。
「海外で経営・マネジメントを行う人材が不足している」のか?
経済産業省の「グローバルニッチトップ企業の5年後の現状と課題」をもう一度、見てみます。2014年に「グローバルニッチトップ企業100選」に選ばれた企業の「海外拠点が存在する国の数」は、2013年に 6.2ヶ国であったものが、2018年に 5.1ヶ国に減少しています。更に、人材確保に関する課題では、「海外で経営・マネジメントを行う人材が不足している」が 53.4%と最も多く挙げられています。この結果をみて、海外子会社の数が、たかだか5、6ヶ国程度で、経営・マネジメント人材が不足しているのか。とすると、隠れたチャンピオン企業のように、10ヶ国、20ヶ国、30ヶ国など、到底、不可能だろう、と言うことも出来ます。
しかし、ポイントは、そこではないのだと思います。ポイントは、海外で経営・マネジメントできる人材が不足しているのではなく、日本にいる経営者、そして日本の本社が海外子会社を経営できない、ということなのだと思います。「海外で経営・マネジメントを行える人材」というのは、日本では一般に「グローバル人材」という名前で呼ばれ、どこの会社も「グローバル人材が不足している」といったことを言います。
ただ、これは、日本のグローバルニッチトップ企業の海外拠点数が5、6ヶ国であるのに対し、ドイツの隠れたチャンピオン企業の海外拠点数が10ヶ国、20ヶ国は当り前という状況の説明にはなりません。なぜなら、ドイツに圧倒的に多くの「グローバル人材」が存在している、という話は一切、聞いたことがありませんので。況してや、隠れたチャンピオン企業の本社は、地方の小さな街や村にあるような会社ばかりです。
言い方を変えますと、「日本」を「現地」に、「現地」を「日本」に変換してくれる、スーパーマンのような個人の出現を期待していても、また、仮にそういう人材を確保できたとしても、広がっていかないと思いますし、継続力もないのではないかと思います。そういうことではなく、「日本」を「現地」に、「現地」を「日本」に変換する装置、即ち、経営する力が必要なのであり、それは現地側や一個人の能力の話ではなく、経営者、そして、本社側の話だと考えます。
コロンブスの卵
と書いてきましたが、日本企業の場合は、実際は、海外子会社を経営「できない」のではなく、結果として、経営「していない」が、より実態を正しく表していると考えます。何を言っているのかと言いますと、そもそもの話として、日本企業には、ごく少数の例外を除くと、大企業から小企業まで、規模の大小を問わず、「海外子会社を経営する」という発想がありません。また、おぼろげに必要性を感じていても、実際に何をしたら良いか分からない、ということなのではないかと思います。これは上場企業ですら、その不正の多くが海外子会社で発生していることからも分かりますし、外国企業の買収事例の多くが失敗している、という事実からも知ることが出来ます。
即ち、ポイントは、日本で当り前に行われている、経営の延長線上に「海外子会社を経営する」が存在していない、ということなのだと思います。一方、ドイツ語圏企業では、彼らが自国で実施している経営の延長線上に「海外子会社を経営する」が存在している。だから、ドイツ語圏企業では、大企業でなくても、地方の中小規模の企業でも、同じことが出来てしまう。それだけの違いなのではないかと思います。ただ、それが出来る、出来ないは大きな違いだと思います。
日本ではこの点について、即ち、外国人に海外拠点を任せつつ、それでいて、しっかりと経営し事業目的を達成することができるか、という論点について、大企業のM&A絡みの論点として議論されることはあっても、グローバルニッチトップ企業の論点として議論されることはありません。ただ、この点が注目されない限り、日本のグローバルニッチトップ企業は大した成果はあげられないのではないかと思います。そしてこの違いは、気付くことが出来るかどうか、という点が最も重要であり、一度、気付いてしまえば、一方の国では、人材や情報の限られた、地方の中小規模の企業ですら出来ている、ということなのだと思います。もちろん、日本企業の場合は、自国で行っている経営の延長線上に、その経営がありませんので、実際にそれをやろうとしても、そんなに簡単には行かないのだとは思うのですが。
繰り返しになりますが、日本のグローバルニッチトップ企業の議論に、ドイツの隠れたチャンピオン企業が引き合いに出されることが多くあります。しかし、引き合いに出すのであれば、ここまで言及しないと意味がないのではないかと思います。
最後に
日本企業の経営者の皆様の中に、ドイツの隠れたチャンピオン企業のような形で、グローバルニッチトップを目指したい、とお考えの方がいらっしゃいましたら、グローバルニッチトップとなるために出来ることを是非、一緒にやらせて頂きたいと考えております。


日本の「グローバルニッチトップ企業」とドイツの「隠れたチャンピオン企業」の違い

⑤ 日本企業に決定的に不足する点  (本ブログ)