こんにちは。公認会計士の山本です。
「世界中にニーズがある」
日本の中小・中堅規模の企業が、日本の外に目を向けるようになったのは、2000年代の中盤くらいからではないかと思います。その頃までは、中国を始めとする近隣のアジア諸国も、まだそう大したこともなく、日本が世界を圧倒していた時代が過ぎ去りつつあるとはいえ、日本の中小・中堅規模の企業からすると、基本的に国内の顧客、若しくは、海外であっても、海外の日本企業を相手にしていれば、十分に商売が成り立つ時代が続いていたからです。そして、この構図が崩れ出したのが、2000年代の半ばだったため、その頃から多くの日本の中小・中堅規模の企業が直接、日本の外に目を向けるようになったと言えます。
経済産業省が2014年に「グローバルニッチトップ企業100選」を選定し、グローバルニッチトップ企業を増やしていこうとしたのも、この流れに沿った施策です。中長期の将来見通しでは、日本経済は今後、大きく伸びることはありません。一方、世界経済は今後も成長を続けていくと予測されています。また、日本には「世界中にニーズがある」優れた製品を持つ企業が多数、存在しています。であるならば、それらの企業に、世界中に売っていってもらうことが理に適っている、という考えです。
ドイツ語圏の「隠れたチャンピオン企業」
また、我が国のグローバルニッチトップ企業の議論を後押しする存在として、ドイツ語圏の「隠れたチャンピオン企業」の存在が挙げられます。「隠れたチャンピオン企業」というのは、経営学者のハーマン・サイモンが「グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業」という著書で提唱した概念で、「名前は殆ど知られていないが、其々の市場でグローバル・リーダーとなっている無数の小さな企業」と定義されています。そして、ドイツの輸出額が日本や他の国を圧倒しているのは、ドイツにおける「隠れたチャンピオン企業」の存在があるからと述べています。
同書では2010年度のデータを用いていますが、以下のロジックにより、この点を裏付けています。ここでは2018年度のデータを用いて同じことを行ってみます。先ず、ドイツと日本の輸出額ですが、ドイツ1兆5566億ドルに対し日本7381億ドルです。次に人口をみると、ドイツ8290万人に対し日本1億2652万人です。人口の少ないドイツが、日本の倍以上の輸出額を計上しています。1人当りの輸出額では、ドイツは日本の3.2倍です。ドイツの輸出力が如何に強いか実感できます。ドイツの人口は8290万人ですが、アメリカ、中国、日本に次いで、世界第4位の経済大国となっていす。一方、世界の企業を毎年、売上高ベースで順位付けしているフォーチュン500にランクイン入りしている企業の数をみると、ドイツ32社に対し日本53社です。著者が比較に使った2010年度のデータでは、ドイツ37社、日本71社でしたので双方とも数を減らしていますがが、大きな構図に変りはありません。即ち、ドイツの輸出を支えているのは、巨大企業ではなく、無数の小さな企業であるという構図です。
そして、著者がドイツの輸出を支えているのは巨大企業ではなく、中小企業であるという推論を立て、実際に調査してみたところ、全世界の「隠れたチャンピオン企業」の60%が、ドイツ語圏に集中していることが明らかになった、ということが紹介されています。
日本にとっては、同じモノづくり大国のドイツの小さな企業が、国の経済を牽引する存在であるという事実は、グローバルニッチトップ企業を目指す日本の経営者にとって、自分たちにも出来る筈という自信の裏付けになるのではないかと思います。また、日本経済の将来図を描く経済産業省が、日本でもドイツと同様の経済構造を実現させたいと考えるのも自然なことと思えます。
日本企業には決定的に不足する点がある
ここまでの議論は、何処にも異論を差し挟む余地が無いほど正しい議論であると思います。経営者もやる気になっており、国も支援しています。ドイツ語圏の「隠れたチャンピオン企業」という成功事例もある。とすると、そこから先は「では、どうやって、世界中のニーズを獲得しますか?」という議論になると思います。「世界中にニーズがあるなら、どうやって獲得するも何もないだろう。ニーズがあるんだから売れるに決まってるだろう。」で済んでしまえば、ここから先の議論は必要ないのですが、実際は「世界中にニーズがある」は「世界中で売れる」の必要条件ではあっても、十分条件にはなり得ないことは、世界中に自社製品を売ろうとしている、多くの経営者の方が経験しているところになります。
そして、そこを突破するために、多くの会社が技術を磨く、顧客の要望に応える、グローバル人材を育てる、等々、色々と試行錯誤を繰り返されているのだと思います。ただ、日本のグローバルニッチトップ企業とドイツの隠れたチャンピオン企業の双方を見てきた経験から私は、日本企業には一つだけ決定的に不足する点があると考えています。そしてその点が改善されない限り、ドイツの隠れたチャンピオン企業のような形で、グローバルニッチトップになれる可能性はないと考えています。逆に言えば、その点さえ改善できれば日本企業も、ドイツの隠れたチャンピオン企業のような形で、グローバルニッチトップ企業になれるのではないかと考えています。
以下、「ドイツの隠れたチャンピオン企業のような形で」が何を意味しているのか、そして、日本企業に決定的に不足する点が何なのか、述べていきたいと思います。
日本の「グローバルニッチトップ企業」とドイツの「隠れたチャンピオン企業」の違い
① 世界中にニーズがある (本ブログ)④ どこが違うのか?