6/04/2020

日本の「グローバルニッチトップ企業」とドイツの「隠れたチャンピオン企業」の違い② <日本のグローバルニッチトップ企業とは?>

こんにちは。公認会計士の山本です。

日本のグローバルニッチトップ企業を数字で見てみると  
日本の「グローバルニッチトップ企業」とはどのような企業でしょうか? 言うまでもなく、特定のニッチな市場で、世界トップ、若しくはそれに次ぐようなシェアを獲得している企業です。ただ、それだけでは、具体的なイメージが湧きづらいと思いますので、昨年の6月に経済産業省が出した「グローバルニッチトップ企業の5年後の現状と課題」という報告を見ていきたいと思います。この報告は、2014年に「グローバルニッチトップ企業100選」として選ばれた企業の5年後の状況を追跡フォローしたものです。
何れも平均値ですが、

2013年2018年
従業員数(回答社数75社)1,015人1,110人
売上高(75社)319億円407億円
海外売上比率(71社)46.60%44.70%
海外売上高(70社)213億円240億円
販売国数(71社)35.5ヶ国29.4ヶ国
海外拠点が存在する国の数(73社)6.2ヶ国5.1ヶ国
全体として「売上高」が伸びていることが見てとれます。気になる点としては、「海外売上比率」が減少していることと、「販売国数」、「海外拠点が存在する国の数」が減少していることです。グローバルニッチトップ企業という概念が提唱されている背景に、海外のニーズを取り込める企業という考えがありますので、微妙な結果のように思えます。
また、両年度のデータを改めて見てみますと、「海外売上比率」が 2013年46.6%、2018年44.7% と殆ど変っていないことが分かります。実を言いますと私は、このデータを初めて見た時は信じられませんでした。なぜならこの比率から、国内売上比率が 2013年53.4% (=100%-46.6%)、2018年 55.3% (100%-44.7%) と計算できるからです。2018年度の日本の世界におけるGDPの比率が5.8%ということを考えると、グローバルニッチトップ企業の国内売上比率が53.4%、55.3%ということはあり得ないだろう、と思ってしまった訳です。そこまで日本の売上比率が高くてグローバルニッチトップになれるのだろうか?、と。
ただ、よくよく考えてみると、世界には様々なニッチな市場があります。従って、日本の売上が50%以上でも、グローバルニッチトップとなれるような市場も存在するのだと思います。若しかすると、日本に需要の大半が偏って存在する市場なのかも知れません。また、若しかすると、全世界に市場が存在しそのトップではあっても、日本事業で手一杯で、海外にまで手が回っていないだけなのかも知れません。飽くまでも平均値を使って推論しているに過ぎませんが、国内売上比率が50%超という点は、日本のグローバルニッチトップ企業の特徴の一つなのではないかと思います。
日本のグローバルニッチトップ企業は2つのタイプに区分できる
次に日本のグローバルニッチトップ企業が、どのようにグローバルニッチトップ企業となったのか考察します。考察の方法は、2014年に経済産業省が選定した「グローバルニッチトップ企業100選」の一社、一社を見ていくことに拠ります。この作業を行った結果、見えてきたことは、日本の「グローバルニッチトップ企業」は2つのタイプに区分できるということです。一つは「他にない技術を持つ」タイプ、もう一つは「地の利を活かした」タイプです。
「他にない技術を持つ」タイプというのは、世界中で、その会社だけ、若しくは、その会社を含め、ほんの僅かの企業しか、その技術を持っていない会社です。全く新しい発想のもと、全く新しい技術を創ったケースや、日本でしか生まれる余地のない技術です。世界中、どこを探しても、他に存在しない訳ですから、「技術を有すること」=「グローバルニッチトップ企業」となる構図です。
次に「地の利を活かした」タイプです。日本を含む東アジア一帯は世界有数の、自動車、機械、電気等の製造拠点の集積地です。また、これらの地域には、世界的な超巨大メーカーも数多く存在しています。このように「地元」に世界有数の製造拠点が集積し、「地元」に世界中に展開する巨大メーカーが存在していることで、其々の会社自身は、自ら世界中に売っていかなくても、「地元」で求められる技術に応えることで、グローバルニッチトップ企業になれる環境が形作られていると言えます。即ち、「『地元』が世界有数の製造拠点の集積地」or「『地元』に世界的な巨大メーカーが存在」+「そこで採用されるだけの技術を有している」=「グローバルニッチトップ企業」という構図です。
それでは両者に共通する特徴は何でしょうか? それは飽くまでも「技術」です。どこまで行っても「技術」です。前者も後者も、「技術を有すること」=「グローバルニッチトップ企業」という構図に変わりはありません。そして日本の「グローバルニッチトップ企業」の議論も、この点においては、一片の疑念も抱いていないように思われます。


日本の「グローバルニッチトップ企業」とドイツの「隠れたチャンピオン企業」の違い