6/06/2020

日本の「グローバルニッチトップ企業」とドイツの「隠れたチャンピオン企業」の違い③ <ドイツの隠れたチャンピオン企業について>

こんにちは。公認会計士の山本です。

海外で、現地企業・現地消費者に買ってもらうには
ところで、グローバルニッチトップになる、ということは、世界中で自社製品を買ってもらうことを意味します。では、どのような時に人は、外国企業の製品を買うでしょうか? 若し、同じような製品が外国企業と自国企業の双方から購入できるとするなら、多くの場合、人は自国企業の製品を選ぶのではないかと思います。
なぜなら、自国企業の製品の方が信用できるからです。何処の誰が作っているのか、名前も聞いたことがないような企業が作る製品より、自国の会社の製品の方が安心できますし、壊れた時、キチンと対応してくれるのか、修理はちゃんとしてくれるのか、国内で修理ができるのか、国内で修理ができない場合、外国まで送らなければならないのか、その場合、追加料金が発生するのか、手続は自分でしなければならいのか、納期を守ってくれるのか、注文通りの品物でなかった場合、キチンと対応してくれるのか、いつの間にか事業を止めていたりしないだろうか、そうなった場合、補充品は手に入るのだろうか、コミュニケーションは全て自国語で出来るのだろうか、自国の商慣習に沿った取引をしてくれるのだろうか、自国企業から購入した時と同じように色々と相談できるのだろうか、等々、
外国企業の製品を購入する際に思い浮かぶ不安を挙げればキリがありません。そのため、人は自国企業と外国企業の選択肢がある場合、多くの場合、自国企業を選択すると思います。とすると、グローバルニッチトップ企業になるためには、この不安を如何に乗り越えるか、という点が重要なポイントになると言えます。
外国で自社製品を売る時の、買い手の不安の克服法 
- 日本のグローバルニッチトップ企業の場合 -
日本企業は、残念ながら、この点があまり得意ではありません。前回のブログで考察しました、日本のグローバルニッチトップ企業の2つのタイプ、「他にない技術を持つ」タイプと「地の利を活かした」タイプのどちらもが、買い手の不安を克服することにそれ程、力を入れずともなれてしまう方法であることは、偶然でないように思われます。
「他にない技術を持つ」タイプは、世界中、何処を探しても、その企業からしか買えませんので、不安であろうがなかろうが買い手はその企業から購入します。一方「地の利を活かした」タイプは、「地元」で少数のプロを相手に商売することで、グローバルニッチトップまで辿り着けてしまう構図です。エンドユーザーは、自らが購入する、例えば、アップルやサムスン、トヨタやメルセデス、ファナック、キャノン等に無数の外国企業の部品やサービスが詰め込まれていることを意識することはありません。
外国で自社製品を売る時の、買い手の不安の克服法 
- ドイツの隠れたチャンピオン企業の場合 -
ドイツの「隠れたチャンピオン企業」は、この点について、愚直にも正面突破を図ろうとします。何をしているのか、と言いますと、先ず、進出しようとする国に自社の海外子会社を設けます。自社製品を販売するための拠点です。製造拠点はその国で販売するために必要な場合にのみ設けます。そして、地道に製品ブランドやコーポレートカラーを浸透させる努力を続けていきます。また、営業網、物流網を整備し、サービス、メンテナンス、技術相談拠点を設けていきます。勿論、海外子会社にいるのは、上から下まで、現地人、若しくは、現地人でない場合でも、現地で普通にビジネスができる人達です。「隠れたチャンピオン企業」はこのようにして、自社ブランドに対する、現地市場・現地消費者の信用を、何年、場合によっては何十年という時間単位で構築します。
「隠れた」というくらいですので、多くの場合、ドイツの「隠れたチャンピオン企業」は情報を外に出していません。そのため、彼らが何をしているのか、なかなかイメージしづらいのではないかと思います。しかし、日本に進出しているドイツの「隠れたチャンピオン企業」の中には、一般消費者向けのビジネスを展開している企業もありますので、それらの企業については、容易に彼らが日本で何をしているか知ることが出来ます。テレビ等でも目にすることの多い企業が幾つもあります。是非一度、そういった企業について調べてみて頂きたいと思います。そして、外国の企業の製品を買う際に私達が持つ一般的な不安が、それらの企業の製品に対しては、完全に払拭されていること、若しくは、競合の日本企業の製品に対する信用を上回る信用に、置き換わっていることを確認して頂きたいと思います。
これが、ドイツの「隠れたチャンピオン企業」の、外国企業の製品に対する買い手の不安を払拭する方法です。そして、彼等はこの作業を10ヶ国、20ヶ国、30ヶ国と同時並行的に、其々の国のフェーズに合せて行っています。こうしたことが分かっていない限り、ドイツの隠れたチャンピオン企業が、ドイツ経済に貢献する程の大きな力になっていることの本質は理解できないのではないかと思います。
日本のグローバルニッチトップ企業の議論では、ドイツの隠れたチャンピオン企業が引き合いに出されることが多くあります。ただ私は上記の論点が欠落した議論は、隠れたチャンピオン企業を引き合いに出す意味のない議論と考えています。と言いますのは、同じニッチな分野の世界シェア上位を占める中小・中堅規模の企業と言っても、そこに至るプロセスは全く別物であり、それにより得られる成果も全く別の次元のものになっている、という点が抜け落ちている議論は意味がないと考えるからです。


日本の「グローバルニッチトップ企業」とドイツの「隠れたチャンピオン企業」の違い