6/11/2018

日銀の貸借対照表(平成30年3月)を見て-続き

こんにちは。公認会計士の山本です。

前回のブログ「日銀の貸借対照表を見て」で、
黒田さんが就任した平成25年3月末から、
直近の平成30年3月末にかけて、
国債が322兆円増加し、一方で、
当座預金が320兆円増加していることが分かりましたが、
国債322兆円増加は分かるのですが、
なぜ、当座預金が320兆円、増加したのか、
よく分からなかったので、
国債が発行される時、各部門がどういう仕訳(資産/負債)を切っているのか、
推測してみました。(金額は10兆円としています。)
  • 国債発行、銀行引受
政府) 日銀政府預金 10兆円 / 国債     10兆円
銀行) 国債     10兆円 / 日銀当座預金 10兆円
日銀) 日銀当座預金 10兆円 / 日銀政府預金 10兆円
国債が、
政府の負債として、右側に計上され、
銀行の資産として、左側に計上されます。
日銀ネットで決済されるので、見合いは銀行預金ではなく、
日銀の各預金を想定しています。
  • 銀行が国債を日銀に売却
銀行)日銀当座預金 10兆円 / 国債     10兆円
日銀)国債     10兆円 / 日銀当座預金 10兆円
  • 政府が日銀政府預金を銀行預金に振り替える
政府) 銀行預金   10兆円 / 日銀政府預金 10兆円
日銀) 日銀政府預金 10兆円 / 日銀当座預金 10兆円
銀行) 日銀当座預金 10兆円 / 銀行預金   10兆円
銀行預金でないと、実際の支払に使えませんので、
政府は日銀政府預金を銀行預金に振り替えます。
  • 政府が銀行預金を歳出として使う
政府) ???  10兆円 / 銀行預金 10兆円
日本) 銀行預金 10兆円 / ???  10兆円
政府が国債発行により受け取った銀行預金は、歳出として、
「日本全国、津々浦々の個人・法人・政府」(=「日本」)に
役務提供の対価、モノの代金として、支払われますので、
日本が銀行預金10兆円を持つことになります。
銀行預金は使っても、自分の所からはなくなりますが、
新たに受け取った人のモノとして存在し続けますので。
で、一連の動きをまとめてみますと、
最終的に各部門に残る債権/債務は、以下のようになります。
日銀) 国債     10兆円 / 日銀当座預金 10兆円 ㋐
政府) ???    10兆円 / 国債     10兆円
日本) 銀行預金   10兆円 / ???    10兆円
銀行) 日銀当座預金 10兆円 / 銀行預金   10兆円
ということで、
日銀のBSに、
国債(増加) 322兆円 / 当座預金(増加) 320兆円
と、あったのは、恐らく、㋐のことなのではないだろうか、と推測し、納得した訳ですが、
ここまで、国債発行の一連の流れを考えてきて、
国債発行というのは、
上の例でいえば、
銀行預金10兆円を、新たに世の中に生み出す行為、
ということが理解できた訳で、
同じように、新たに銀行預金を創出する行為でも、
銀行借入であれば、
  借入者) 銀行預金 〇〇円 / 借入   〇〇円
  銀行)  貸付   〇〇円 / 銀行預金 〇〇円
と、借入者と銀行は、「借入/貸付」という一つの債権/債務で繋がり、
返済が必ず求められる訳ですが、
国債の場合は、
銀行預金を持つ日本が、「???」で政府と繋がり、
政府が、「国債」で日銀と繋がり、
日銀が、「日銀当座預金」で銀行と繋がる、
という具合に、「どうなってるんだ、これは?」という感じになります。
で、更にややこしいのは、
「???」に入るべき、と考えられる、
「将来の税収の増加 or 将来の歳出の減少」という
「債権/債務」が成立している、とは言い難い、ということと、
「日銀当座預金」が、
究極的には「日本銀行券を刷って渡す/日本銀行券を刷って渡して貰える」という、
変わった性質を持つ「権利/義務」である、ということが、
余計にどうなっているんだ、という気持ちにさせられるところな訳です。
イメージ的には、
「???」が成立し、
将来、キチンと履行されるのであれば、
国債の償還期限が来た時、
政府は国債償還に必要な資金を持っていることになりますので、
発行時と反対の資金の流れが起こり、
全ての残高がキレイに消えることになりますが、
ただ、この場合は、銀行預金も、その金額だけ、世の中から消えますので、
その時の景気が良くなっていて、
政府以外の部門が、
銀行からの借入を増やし、
銀行預金が増えている状況になっていないと、
世の中から、全体として、銀行預金が減少してしまいますので、
そういう恐れがある場合は、「???」は、
政治的に成立しないのではないか、と考えてしまいます。
で、「???」が成立しないとすると、
政府は日銀に支払をしようにも、
支払うお金がないので、国債を償還できず、
借り換えにより、国債残高は、残り続けることになるんだと思います。
そうすると、
4者間をつなぐ3つの「債権/債務」のうち、
日銀と銀行との間に存在する「日銀当座預金」だけが残ることになります。
で、「日銀当座預金」というのは、
繰り返しになりますが、
究極的には、日本銀行券を印刷して銀行に渡せば、
義務を履行したことになるので、債務不履行は起こりません。
もちろん、銀行からすると、
市中の日本銀行券に対するニーズが増えない中、
日銀当座預金の履行を請求して、日本銀行券をもらって帰ってきても、
単に保有コストが掛かるだけなので、
日銀当座預金の大方は、履行されることなく、そのまま
銀行の資産として、残り続けることになるんだと思います。
と、ここまで来て、
個人的には、2つの疑問が残りまして、
一つは、
銀行にとって、資産に日銀当座預金があり続け、
負債に銀行預金があり続ける、ということが、
どういうことを意味するのか?
ということと、
もう一つは、
こういう「打出の小槌」みたいな方法が、
いつまで続けられるのか?
ということです。
前者については、銀行にとって、
日銀当座預金が、日本銀行券を刷って渡してもらえる権利であり、
銀行預金が、日本銀行券を渡す義務なので、
銀行は、預金者から払戻の請求を受けても、
日銀にお札を取りに行き、預金者に渡せばよいだけですので、
債務不履行は起こらないと思うのですが、
資産サイドの日銀当座預金と、
負債サイドの銀行預金の、
其々の金利のレベルや動きにより、
銀行の損益に影響が出るんだろうな、と直感的には思う訳で。
まあ、この辺は、金融システムが、安定的に維持されるか、
と言うことなんだと思うのですが。
これから新聞を読む時は、
そういう情報にもアンテナを立てていきたいな、と思ってしまいました。
で、後者の問題については、
「打出の小槌」のコストは、
直感的には、インフレなのではないかと思います。
返済不要の銀行預金が、毎年、生み出され、
その銀行預金で、政府の支払が続けられると、
流石に、どこかしらのレベルまで行けば、
インフレになってしまう、と思う訳で。
まあ、ただ、幸いなことに、
今のところ、まだ、そういうレベルには全く、なっていないようなので、
景気が良い間に、キチンと増税して、
少なくとも、これ以上、国債残高が増えないようには
すべきなのではないかと思います。
当分、大丈夫なのかも知れないとしても、
この方法は、麻薬のようなモノだと思うので、
政治家や国民がこの状態に漬かりきってしまうと、
歯止めが効かなくなるんじゃないかと思うんですよね。
まあ、ただ、最近の選挙なんかを見ても、
増税(or歳出削減)を主張する政党、政治家が、
一人もいない状態なので、
そうは言っても、このまま行ってしまうのかな、とは思ってしまうのですが。