こんにちは。公認会計士の山本です。
昨日、格安旅行会社「てるみくらぶ」の社長が逮捕されましたが、
払い込まれたツアー代金の弁済の目途は、全く立っていないようです。
まあ、しかし、いつも思うことなのですが、破綻する会社というのは、何故、もっと早い段階で潰れてくれないんだろう、と思ってしまいます。
もっと早い段階で倒産していれば、ここまで被害が大きくなることは無い訳なんですが、
「てるみくらぶ」に限らず、他の会社でも、倒産する時は、こんな感じで、最後の最後、実際問題として、お金が無くなる時まで、事業を続けてしまうケースが多い訳で、
何とかならないものか、と、いつも思ってしまいます。
私は、今年の春まで、8年間、ドイツの会社の、日本にある子会社の会計監査をしていました。
ドイツの会社というのは、子会社の赤字が続き、債務超過に陥ると、一社の例外もなく、「増資をしなければならないか?」という質問をしてきます。
ドイツでは、会社は債務超過の状態で存続することは許されない、ということなのだと思うのですが、
そんな時、私はいつも「日本では債務超過だからといって、それを解消しなければならない、という法律はないので、キャッシュが回っている限り、増資をしなくても大丈夫です」と答えていました。
まあ、ただ、日本ではOKであっても、ドイツ人的には、非常に気持ちが悪かったようで、結局、殆どの会社が増資をし資産超過にしていました。
即ち、彼等にしてみれば、
会社が負っている債務が、会社が有している資産を上回っている(債務超過の状態)のであれば、その会社には、その債務全てを返し切る「力」がないのだから、
資産が債務を上回る(資産超過の状態)まで、株主は増資しなければならないのではないか。
その状態のままでOKというのは、明らかにおかしいだろう、
ということなのですが、
この感覚、
「何年も前から赤字だったのを隠してツアー客を募り、お金を集めたのは詐欺と同じだ」と憤る、
家族旅行代金の30万円を現金で支払った千葉県の主婦の感覚と、完全に一致しているように思えますし、(日本経済新聞11月8日夕刊「被害弁済見通し立たず「金返せ」「詐欺」ツアー客ら憤り)
私自身も、それが全うな感覚だと思うのですが、
不思議なことに、そして、残念なことに、日本では、債務超過の会社がゴロゴロしている。
「てるみくらぶ」についてマスコミが、「債務超過なのに事業を続けていた」と責め立てているのが滑稽に思えるくらい、ゴロゴロしている。
理由は何か、と言えば、債務超過でも、会社が生きていけるから、ということになる。
そして、何故、債務超過でも生きていけるか、と言えば、
日本では、企業に資金を提供している銀行が、会社自身の資産ではなく、
会社の外の人間の個人保証、会社の外の人間の不動産担保に依拠して、お金を貸しているから、
ということになる。
そうすると、会社自体が持っている資産は、これしかないのに、
それに見合わない額の借入が出来てしまう。
なので、当り前のこととして、会社が持っている資産より、会社が負っている債務の方が大きい、債務超過の会社がゴロゴロしている、という結果になる。
因みに、山田社長が、会社がそんな状態なのに、3千万円余りの役員報酬をもらっていた、ということも大きく取り上げられていますが、
債務超過の会社の役員が、そのくらの報酬をもらっているのは、結構、あることで、
何故かといえば、
その役員が、大口の債権者である銀行に個人保証を入れているのであれば、銀行にとっては、そのお金が会社にあろうが、役員の所にあろうが、どちらでも構わないからな訳で。
まあ、これも、ドイツ人が聞いたら、彼らの信じているものが此処に存在していないことに、頭の中がグラグラしてしまうのではないかと思いますし、
千葉県の主婦の方にしても、「えっ、それでいいの?」という気持ちにはなるのではないか、とも思うのですが。
まあ、そんな感じで、
ドイツ人が考えているような世界であれば、会社のことは会社で完結するので、
「てるみくらぶ」のようなことは起こらない訳ですが、
日本では「債務超過」が「赤信号」にならないので、
本当にCASHが尽きるまで、企業が存続してしまう。
そして、そこまで行ってしまうと、破綻の「悲しさ」は、極大化してしまう。
会計士的には、よく見る光景ではあるのですが。
「てるみくらぶ」は、被害者である債権者が、一般の人たちであり、人数も非常に多いので、
こんなことでは、安心して、日常生活が送れないので、特別な救済があって然るべき、と個人的には思いますし、
また、多数の最終消費者を顧客にする事業については、もっと厳しい予防措置が設けられるべきなのではないかと思うのですが、
それと同時に、この「債務超過がゴロゴロしている状態」、何とかならないものかと思ってしまいます。
因みに、「債務超過がゴロゴロしている状態」の大本である、銀行の個人保証や不動産担保、
銀行にとっては、二重、三重の保全として、歓迎すべきものなのかも知れませんが、
恐らく、結果として見ると、銀行自体も得していないのではないかと思います。
何故なら、これだと、企業の本当の状態が見えないので、「てるみくらぶ」の事例のように、
業況が悪くなった時、行くところまで行ってしまい、
結果として、より多くの損失を抱えてしまうケースが多くなると思いますし、
そうでない場合でも、企業の事業自体を、銀行が適切にチェックする構造になっていれば、
企業が、他者からの視線に晒され、規律ある成長を遂げられる可能性が高くなり、
結果として、WIN-WINの関係がもたらされる可能性が高くなると思うからなんです。
今みたいに、事業の状況に係らず、社長が高額報酬を貰えるような
「好い加減」さが罷り通っているようでは、
そういう会社が永続的に健康な状態を保てるとは、全く思えません。
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