11/07/2017

為替予約をするのに与信枠が必要な理由

こんにちは。公認会計士の山本です。
私はバードウォッチングが趣味なのですが、
昨日は休暇をとり、山の方で、鳥を見ていました。秋空の下、気持ちよかったのですが、
それに加えて、キバシリという、これまで見たことのない鳥を見ることができたので、更に幸せな気持ちになりました。
ところで、
以前、ある会社の経理の方から「為替予約をするのに、何故、与信枠が必要なんですか?」という質問を受けたことがあります。
今では、銀行の方から「是非とも、当行で、為替予約をして頂けませんか!」と言ってくるような会社になっているのですが、
その当時は、かなり苦しい時期だったので、為替予約をしたい、と言っても、
幾ら幾らの預金を担保に置いてもらわないと、為替予約のための与信枠は設定できません、と言われていました。
なので「為替予約をするのに、何故、与信枠が必要なんだろう?」という、根本的な質問になったのだと思います。
感覚的には、予約実行日のSPOTレート次第で、為替予約は
勝つこともあれば、負けることもあるので、
負けた時のために、与信枠が必要、ということなんだと思うのですが、
これを会計的に考えてみますと、
例えば、11月7日に、1ヶ月後(12月7日)のドル買い円売りの為替予約を約定したとします。
  金額  : 1万ドル
  レート : 113円/ドル
そうすると、
11月7日の約定した時に、この会社の12月7日の1万ドルを受け取る権利が確定しますので、この会社は「1万ドルを受け取る権利という金融資産」を有することになります。
また、同時に、113万円(=1万ドルx113円/ドル)を、12月7日に銀行に支払う義務も発生しますので、「113万円の支払義務という金融負債」を負うことになります。
即ち、11月7日以降、12月7日まで、この会社は、以下の資産、負債を有することになります。
(借方)金融資産 1万ドル  (貸方)金融負債 113万円
ここで、
   金融資産の額 = 金融負債の額 であれば、勝ち負けはありませんが、
それぞれの通貨が異なるため、為替の影響により、
   金融資産の額 > 金融負債の額 になることもあれば、
金融資産の額 < 金融負債の額 になることもあります。
そして、
「金融資産の額 < 金融負債の額」の場合、純額で銀行に対する負債となりますので、
そういう場合に備えて、予め、与信枠を設定しておく、ということになる訳です。
因みに、
会計基準では、為替予約は上のように、「受け」と「払い」を別々に処理するのではなく、一体として時価評価を行い、評価額がプラスであれば資産に、マイナスであれば負債に計上し、見合いの評価損益は、その為替予約がヘッジか、非ヘッジかにより、其々、異なる処理をすることになります。また、日本では、振当処理という特例処理も認められています。ということで、上の説明は、飽くまでも、考え方に過ぎませんので、ご注意下さい。
それから、ちょっと話は逸れますが、
上の例で見てきたように、為替予約というのは、
企業にとっては、以下の資産、負債を発生させることを意味しますので、
(借方)金融資産 1万ドル  (貸方)金融負債 113万円
為替予約を使わなくても、やろうと思えば、同じことが出来てしまいます。
例えば、11月7日に113万円を借りてきて、その時のSPOTレートで、直ぐに1万ドルに換え、外貨預金に置いておく。
そうすると、113万円の借入金(金融負債)と1万ドルの外貨預金(金融資産)を作ることが出来ます。
期日になったら、為替予約の時と同様、113万円の日本円を支払う(返済する)。
そして、1万ドルについては、銀行から受け取るのではなく、既に外貨預金として手許にある。
これだと、為替予約の時と同様、為替レートは11月7日時点で確定できます。
例えば、ドルの支払債務があるが、支払期日が確定しない、といった場合、
なかなか為替予約が取りにくかったりすると思うのですが、
そういった場合でも、この方法であれば、
為替予約より使い勝手が良いのではないかと思います。
ただ、為替予約だと、その為に必要な与信枠は、予約額の10%~20%くらいかと思うのですが、
この方法では、必要な与信枠は、借入金額、全額、
即ち113万円となる可能性が高い、
というのと、
会社側の管理が、より面倒になる、
借入、預金とも、市場金利と掛け離れた金利となる可能性が高いので、その分でも損をしてしまう可能性がある、
といった点が難点かなと思います。
それと、折角ですので、為替予約、銀行は何をしているのか、
という点を書いてみたいと思います。
先ず、11月7日に、一ヶ月後の1万ドルの
「(顧客から見て)ドル買い円売り」「(銀行から見て)ドル売り円買い」の為替予約を約定した場合、
厳密に1対1でやることもなければ、1万ドルという端数を相手にすることも、実際にはない訳ですが、
考え方としては、
一ヶ月後に1万ドルを売り渡すために、
11月7日の約定時に、日本円を借りてきて、その円でドルを買っておきます。
購入するドルの金額は、12月7日迄の1カ月間に付利される、ドルの金利分を差し引いた額のドルになります。
そうすれば、1ヶ月後の12月7日に、1万ドルが準備できていることになりますので。
また、11月7日に借りる日本円の額は、上のようにして決まる、11月7日に購入しなければならないドルの金額を購入するために必要な額になりますので、
11月7日時点で必要なドルの金額に、11月7日時点のSPOTレートを掛けた金額になります。
そして、1ヶ月分の金利が付利された円の金額を12月7日に返済します。
なので、12月7日に1万ドルを売り渡す対価として、銀行が顧客から得なければならない日本円の額は、最低でも12月7日に銀行が返済する日本円の金額であることが必要になります。
勿論、それでは、銀行が儲からないので、それに、顧客毎に決められたマージンを載せることになります。
と、こんな感じで、先物のレートというのは決まりますので、
先物レートの決定要素は、「約定日の為替レート」、「(為替予約の双方の通貨の、為替予約の期間に対応した)金利」、「お客さん毎のマージン」になります。
まあ、しかし、いつも思うのですが、為替は怖いですね。
今まで信じてきた地面が、いつの間にか高くなったり、低くなったりするようなものですから。
なので、コントロールできるものは、コントロールしていきたいものです。